「匂いのヒント」は、本当にブラインドドッグの助けになるのか?

多くの人がブラインドドッグ(目の見えない犬)のトレーニングに、「匂いのヒント」を利用することを思いつきます。また、本やWebサイト、トレーナーが「匂いのヒント」をブラインドドッグを助けるためのいい方法として紹介していたりもします。しかし、私は「匂いのヒント」を使うことをおすすめしません。

それは、「匂い」がその特性から扱いが難しく、匂いを加えることによって犬を混乱させてしまうことがあるからです。また、ブラインドドッグの残された能力や行動特性を生かした効果的なサポート方法は他にたくさんあります。

匂いを扱う難しさ

私たちが、ヒントとして物やターゲットに加えることができる匂いには、食用エッセンス(バニラエッセンスやオレンジエッセンス)、アロマオイル、香水などがありますが、そうしたものには次のような特性があります。

  • 匂いが、私たちの指、手、服、犬の顔や体にも残ったり移ったりする。そこからさらに他のものに移る可能性もある。
  • 時間と共に変化する。
  • 揮発する。
  • 拡散する。
  • 漂い、部屋の隅などにたまる。

目に見えるものではないため、そこだけに存在させられているかどうかさえ、私たちは確認することができません。もし、犬が、確実に匂いのヒントを目印として識別し、物を探したり、その存在を知るために、匂いのヒントをたどることを学習していたら、ヒントとなる匂いが複数の場所に存在したり、思いもよらない場所へと移動していたり、変化してしまったり、消滅しまったりしたら、その犬を混乱させることになるでしょう。

私もかつて、匂いを付けるという方法を、愛犬のミニチュア・ダックスののの(ブラインドドッグ)に使ったことがありました。当時私はまだブラインドドッグたちのことを十分に理解できておらず、彼らの成功を助けるためのメソッドを確立していませんでした。レトリーブを教えるために匂いのヒントを使いましたが、今ではとても後悔しています。

インストラクターの認定を受けるために必要なオビディエンスのテストの中にフォーマルレトリーブがあり、練習していました。目の見えない犬にレトリーブを教える方法についての情報など、当時どこにもなく、通っていたトレーニングレッスンを担当するインストラクターの方々も知りません。私は愛犬ののと試行錯誤しながら、それをみつけていくしかありませんでした。

ダンベルは、布製で中に鈴が入っているものを使い、落下地点を音で知らせられるようにしていました。また、 Keep Going Signalを使って、ダンベルのある正しい方向に進んでいることをののに伝え、彼女が投げられたダンベルを見つけられるようサポートしていました。しかし、5m先に投げらたターゲット(ダンベル)を探し出すことは、目の見えない彼女にとってはとても難しいものでした。

本当にばかだった私は、「匂いのヒント」を使うことを思いつきました。彼女がターゲット(ダンベル)をもっと見つけたいと思うようになるには、自分はどうしたらいいのかを考えるのではなく…。

ダンベルに付けられたオレンジエッセンスの匂いは、私がダンベルを投げるたびに拡散し、バウンドするたびに床に移り、さらに部屋の隅へと流れ、そこにたまっていたはずです。私の選択は、彼女を混乱させ、ターゲットをますます見つけづらいものにしてしまいました。私の誤った選択で彼女に負担をかけてしまったことを本当に申し訳なく思います。

ターゲットとなるものそのものの匂いを利用する

ブラインドドッグのトレーニングで、匂いを手がかりとして使いたいのであれば、ターゲットとするもの「そのものの匂い」を利用することをおすすめします。それが自分にとって重要なものだと思えば、犬はその匂いを識別することができます。私たちがすべきなのは、匂いを加えることではなく、ターゲットの価値を高めること。ターゲットをブラインドドッグにとって重要な、価値の高いものにすることです。

次の動画は、私が愛犬ののに提供しているレトリーブゲームです。耳と鼻を使って、自分が望むものを見つける能力を伸ばすためもの。ののがターゲットになっているオーボールラトルを音とそのものの匂いで見つけていることがおわかりいただけると思います。

ののは現在12歳。耳が遠くなりはじめています。オーボールラトルのラトル音を聞き取ることは今ではもう難しいのですが、匂いの追跡と私からのKeep Going Signalを利用して、オーボールを見つけることができます。以前より見つけるまでの時間はかかるようになりましたが、すばらしい集中力を発揮して、今でもこのゲームを楽しむことができています。

ターゲットの価値を高める方法

1. 古典的条件付け

クリッカートレーニングがはじめての犬にまず提供するクリッカーのチャージングと同じ要領で、古典的条件付けを利用して、ターゲットを二次強化子(トリーツ(一次強化子)の出現予感し、連想させるもの)にします。

2. 反復し、強化の歴史を作る

行動の完成を急ぐのではなく、愛犬が成功を重ねながら、ステップアップしていくことを重視しましょう。成功し報酬を得ることをくり返すことで作られる強化の歴史は、ターゲットや行動の価値を高め、成功の経験は自制心と自信を養います。

3. 決まった報酬

ターゲットの価値を高める時だけではなく、難しい行動への意欲を引き出したい時にも役立ちます。「決まったパターン」はブラインドドッグを助けます。いつも決まった順序で物事が起きることで、状況の予測ができるので、ブラインドドッグに安心感を与え、ターゲットやあなたの出すキュー(合図)、何をすべきかを考えることへの集中を助けます。何を得られるかを明確にするのも「決まったパターン」。特定の行動またはターゲットと特定の報酬の「決まったパターン」をブラインドドッグが記憶すれば、その報酬をはっきりと頭に思い浮かべ、ワクワクしながらターゲットを探し、行動するでしょう。私はこの方法を愛犬のののレトリーブで使いました。練習のときは彼女の大好物のかぼちゃをごほうび(トリーツ)として必ず提供していました。大好きなかぼちゃを思い浮かべながら、彼女は難しいレトリーブに挑んでいたに違いありません。解放のキュー「OK!」を聞いたあとの彼女のしっぽがそれを物語っています。

「匂い」以外にもトレーニングに利用できることはたくさんある

以前の記事にも書いたように、視覚を失って最初に頼るのは「記憶」であり、同じ手順やいつも同じ配置などの「決まったパターン」は、ブラインドドッグが状況やこれから起きることを想像することを助け、行動することへの安心感を与えます。

新しい家具の配置や家の間取りを教えたいのなら、ケガをしないよう、家具や柱などの角や尖ったものをクッション材で覆い、階段など落下の可能性のある場所へはゲートを設置するなどアクセスできないようにする。あなたがすべきなのはそれだけ。あとはただ待てばいいのです。ブラインドドッグは自分の体と記憶を使い、頭の中に地図を作っていきます(しかも、3Dで!)。焦らず、焦らせず、状況を確認、理解するための十分な時間を提供すればいいだけです。生活に必要なものを一箇所にまとめたエイドステーションを用意しておけば、さらなる助けとなるでしょう。

次の動画をご覧いただくと、ほんの一部分の行動ではありますが、ブラインドドッグがどうやって物の形や段差などの高さを調べ、理解しているのかがわかるかと思います。

マズルはブラインドドッグが目の代わりとして利用する重要なツールのひとつ

場所や位置を伝えるには「音」が明瞭かつ正確です。また、「触れる」ことや「物の質感の違い」も、ヒントやキューとして使うことができます。ブラインドドッグのトレーニングに用いることのできることは「匂い」以外にもたくさんあります。

前述のレトリーブですが、「匂いのヒント」を加えることを辞め、決まった手順(決まったパターン)、ダンベルの鈴の音のヒント、Keep Going Signal、決まったトリーツ(決まったパターン)というテクニックの元、数えきれないほどの練習を重ね、行動は完成し、テストにも合格しました。こちらが私たちの長い旅路の結果です。


【参考記事・動画】

1. 「決まったパターン」を利用したブラインドドッグを助けるためのアイデア
2. 「決まったパターン」をトレーニングに利用した実際の例
呼び戻し(オイデ。オビディエンステスト用のフォーマルなスタイルのもの)

どんな「決まったパターン」をこの呼び戻しに使っているかについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

3. パターンを記憶し、これから起きることを予測して動いていることを生かし、トレーニングに利用した実際の例
マッテ(トマレ)の教え方(解説:英語)
4. 「音」をヒントとしてトレーニングに利用した実際の例
ブラインドドッグをサポートするための音の合図(解説:英語)
ブラインドドッグにハンドターゲットを教える方法(解説:英語)
ブラインドドッグのためのスペシャルクリックスティックの作り方・使い方
5. 「触覚」を生かし、トレーニングに利用した実際の例
触ることをキュー(合図)にしたトリック(解説:英語)
触ることをヒントにして「スピン」の教える(解説:英語)
質感の違いをキュー(合図)にできるかを試したトレーニング実験(解説:英語)

具体的な教え方の手順についてはこちらの記事(英語)をご覧ください。


ブラインドドッグは1つの感覚だけに頼っているわけではない

効果的にやさしくブラインドドッグをトレーニングしたり、彼らを助けるために、私たちは以下の2つのことを心に留めておきましょう。

  1. ブラインドドッグは1つの感覚だけに頼って、状況や物事を考えたり、把握したり、学習したり、認識したり、識別したり、判断したりししているわけではない。
  2. ヒントとして何を利用するかは、ブラインドドッグが決める。

聴覚と臭覚、触覚と聴覚と臭覚など、ブラインドドッグは、複数の能力や感覚を組み合わせて使い、認識したり、学習している可能性があります。私たちは、手かがりとなりそうなものを想像して提案することはできますが、何を手かがりとするか、何を判断の基準にするかはその犬次第。犬が決めるのです。

私は毎日このノーズワークゲーム(ノーズゲーム) を愛犬ののに提供しています。私がフードを詰めたコングを隠している時、もうこのゲームのパターンを理解している彼女は、指示をしなくても自発的にフセて待っていますが、その間私の動きに集中し、私の立てる音に耳をそばだて、私がどこへ行き、どこにコングを隠しているのかを探り、記憶します。「探して!」というと、彼女はまず、キャッチした情報から彼女が推測した場所を探します、次にコングが今まで置かれていたり、隠されていたことがある場所を探し、最後にその他の場所を探します。

つまり、彼女はこのゲームで、目的を効率的に達成するために、少なくとも聴覚、臭覚、記憶の3つの能力を組み合わせて使っているということ。さらに注目してほしいのは、目標の達成するために、どう行動すればいいかや、それぞれの能力をどう使えばいいか、何を手がかりにすればいいかは私が教えたわけではありません。彼女が自分自身でそれを思いつき、自分なりの方法を編み出したということ。私はただ、彼女がその目標を達成したいと思わせ、その意欲を持ち続けられる環境を作り、提供していただけです。

行動そのものを教えようとするのではなく、意欲を引き出すことに集中する

行動そのものを教えようとするのではなく、ターゲットや行動に対する意欲を高めることに集中しましょう。愛犬が、それを大好きになるにはどうしたらいいか、それがしたくてたまらないと思わせるにはどうしたらいいかを考えましょう。それが実現できれば、ブラインドドッグは、想像力を働かせ、残された能力を最大限に活用し、自分なりの答えや解決法を見出し、あなたの想像を超えるような結果を見せてくれるはずです。

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