吠え依存症、興奮依存症かもしれないと考えてみる

依存症とは、ある物事に依存し、それがないと身体的・精神的な平常を保てなくなる状態(大辞林)。アルコールや薬物などの物質への依存だけではなく、ギャンブルやインターネット、パチンコなど行為への依存もあります。快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行なった結果、その刺激を求める欲求が生じ、その欲求を求めることを優先するようになってしまうというもの。ドーパミンが出て快感や高揚感を味わえば、どんな行為でも依存症となりうるのです。

Woof © by misteraitch

犬たちの「吠え」や「興奮」「攻撃的な行動」などは、その行為自体が報酬となるため(内的報酬)、依存する可能性があります。お伝えしたいのは、愛犬を依存症かどうか判断しましょうということではありません。依存症かもしれない…という視点から、「吠え」や「興奮」「攻撃的な行動」を見てみてほしいのです。人の依存症の判断基準や背景、解決策と照らし合わせることで、愛犬の行動改善のために必要なこととその理由が理解しやすくなるからです。

依存症の基準とは

まず、依存症かどうかの診断基準を見てみましょう。WHO(世界保健機関)の定められるアルコールや薬物への依存症の診断ガイドラインを、平易な言葉で簡潔にしました。依存の対象を仮に「アルコールの摂取」としてあります。以下の6つの項目のうち、過去1年間で3つ以上に該当した場合に、依存症と診断されます。

  1. 常にそのことが頭からはなれないようなアルコール摂取に対して強い欲望や強迫観念がある。
  2. アルコール摂取量、回数を自分でコントロールできない。
  3. アルコール摂取しないと、イライラしたり落ち着かなかったりする。
  4. アルコール摂取量、回数が増えている。
  5. アルコール摂取を中心とした生活となり、他のことに興味が持てない。
  6. アルコール摂取によって、健康や仕事、家族・周囲との関係に問題が生じているにもかかわらず、やめられない。

「アルコール摂取」の部分を「吠えること」や「他犬に対して興奮すること」などに置き換えてみてください。強い欲望や強迫観念については、本犬に聞いてみないとわからないことですが、例えば、他犬を見て興奮する場合、すれ違うすべての犬に興奮するようならば、そうせずにはいられない状態であると推測することができるでしょう。

どうでしょう。「吠え」や「興奮」、「他犬、他人への攻撃的な行動」で悩まれいる方は、当てはまる項目があったのではないでしょうか。では、もし、愛犬がその行動の依存症となってしまっているとしたら、私たちにはどんな手助けができるでしょう。

依存症の背景となるストレスへの対処方法

依存症の背景となるのは「ストレス」。もちろん、ストレスがまったくない生活というのはありませんし、犬の望みをすべて叶えてくださいということではありません。犬のストレスを軽減するための要素と方法を見て行きましょう。

体の快適性

痛み、かゆみなどの身体的な不快感がないこと。清潔を保つことや、体の健康のために必要な体を動かす機会を提供する、適切な獣医療を受けることだけではなく、犬具(首輪、ハーネス)の種類やサイズ調整によって苦痛を与えていないかも見直す。当然、痛みを与えるトレーニングやハンドリングはすべきではありません。

心の快適性

KN Dog Walk- Yorktown- Francis © by skirtpr

カーミングシグナルやストレスサインから、不安やストレスが小さい段階で気づき、その対象から離すなど対処する。好奇心や能力を満足させるための遊びを提供する。頭や鼻を使うゲームの提供などが考えられますね。

セルフコントロールを身につけさせる

小さな我慢ができなければ、大きな我慢はできません。心の衝動を抑える経験と我慢への評価(報酬の提供)するエクササイズを行なう。本当に小さな我慢から少しずつ少しずつ難していくことが大切。

自信ををつけさせる

自分で考えて行動し、よい結果が得られる。小さな成功を重ねるトレーニングによって自信を育てることができます。自分の体を隅々まで把握し、上手にコントロールできることも、自信に繋がります。

飼い主とのよい関係

「犬が困ったときに自分で解決しようとすると、そこで生まれるのは「噛む」という行為。人の社会中では好ましくないこと。困ったときは、飼い主のところへ助けを求めるようにする野が望ましい」(ケン・マッコート)犬のシグナルや特性を理解して、犬の不安や緊張など気持ちに気づけるようになることや、間違いを罰して行動を教えるのではなく、犬が好ましい行動を選択しやすい状況を提供し、犬のよい選択を評価する(報酬を提供する)方法で教えることで、愛犬が気持ちを理解してもらえている、助けてくれると感じる、困った時に頼りたいと思う飼い主を目指しましょう。

別の選択肢を提供する

依存症は、そのことが常に頭から離れない状態。つまり、他の選択肢がない状況。それを打破するために、たばこを辞めたい場合、たばこのことが頭に浮かんだときは、別の特定のことを考えるように、お医者さんは指導するそうです。犬たちにも同じ対処方法を提供できます。

私たちは、「食べる」ことや「おもちゃで遊ぶ」という別の選択肢を用意することができます。「吠え」や「興奮」「攻撃的な行動」に依存しているとすれば、その行為は相当な魅力あるものということ。代替えとなる選択肢は、それに見合う魅力あるものでなければならないことを忘れてはいけません。

選択肢の魅力をUPするポイントは、そのコのし好性と希少性です。さらに、その行為の時には同じ物を提供することで、犬が思い浮かべやすくなります。

他犬を見たら、「その時しか食べられない」「大好物」の「チーズ」をあげるというエクササイズを繰り返していれば、他犬を見た時にぽわわーんと頭の中に「チーズ」が浮かぶようになります。他犬を見たら、「その時しか登場しない」「大好きな」「ひっぱりっこ遊びのおもちゃ」が出て来たら、他犬を見た時にぽわわーんと頭の中に「ひっぱりっこ遊び」が浮かぶようになります。そうなれば、他犬を見た時に「吠える」のではなく、報酬(食べ物やおもちゃ)を期待し「飼い主を見る」ようになるでしょう。

もし、他犬に対しての反応の原因が、挨拶がしたいなどの興味ではなく、不安である場合、「不安の対象から離れる」ということは、その犬にとっての強い望みであり、大きな報酬となるので、「離れる」ことを別の選択肢として提供することができます。この方法はBAT (Behavior Adjustment Training)といいます。詳しくお知りになりたい方はこちらのサイト(英語)をご覧ください。本(英語)も販売されています。

限界を越える前に。トレーニングは根気づよく。

もうひとつ、とても大切なのは、限界に達する前にその選択肢を提供すること。不安、興奮、攻撃的行動いずれも、その対象となるもの(他犬や他人、バイク、鳥など)と、どのくらいの距離になると、体を固くしたり、見つめはじめるかを観察してください。その距離がそのコにとっての限界なのです。吠えたり、興奮したりするのは、限界を越えた状態です。限界を超えてから別の選択肢を提供しても、その選択肢は選択されることはないと考えましょう。限界とは自分をコントロールできない状況なのです。

「食べる」や「おもちゃで遊ぶ」が別の選択肢であると判断するのは、あくまで「犬」です。なので、別の選択肢だと気づくまで、根気よくエクササイズを繰り返し、続ける必要があります。

依存症という視点から見ることで見えてくる適切な対処方法

今回は、人の依存症に照らし合わせて、強い内的報酬の出る「吠え」や「興奮」、「攻撃的な行動」の行動改善の方法についてお伝えしました。そうした行動に対して、必要なのは叱ることや罰することではなく、別の選択肢を与えることだと、感じていただけましたでしょうか。

好きが原因の興奮も改善を

前の記事のイラストの中にも登場しているように、他犬を見ると興奮してリードをひっぱり向っていくワンちゃんに対して、「ワンちゃんが好きなのねー」とぐいぐい引っ張る犬の思うがままに他犬へと向わせている光景をよく見掛けます。「他犬依存症かも…」という視点で見てみてください。どうでしょう。お酒好きだもんね。飲みたいの。じゃあ買ってあげるわねー。あらまた飲みたいの。…と、アルコール依存症の娘や息子にせっせとお酒を運んでいるのと同じですよね。恐ろしい光景に見えてきませんか。飼い主さんが、執着や依存を支援してしまっている状態。体や社会生活への悪い影響よりも、「好きだから」を優先させて、好きなものを提供することは賢明な選択ではありませんよね。理由が好きであろうと不安であろうと興奮に変わりありません。行き過ぎる興奮や興奮状態が続くことは、犬の体のためにも好ましいことではありません。好きがベースの興奮も、今回ご紹介したアプローチで改善していきましょう。他犬にあいさつしたいコなら、落ち着いていられたら、そのご褒美としてご挨拶をさせてもらうといいでしょう。また、挨拶の終わりは、犬ではなく飼い主が決めるようにしましょう。先を見据えた安全の判断ができる飼い主さんですから、状況や環境を管理する責任は飼い主さんにあります。

誰でも依存症になる

私たちも、チョコレートやケーキ、ショッピングやメールなど、必要ではないと気づいていながら、辞めようと思いながらも、ついやってしまうことはありますよね。誰でも多少なりとも何かに依存していますよね。それに、きっかけさえあれば、それがエスカレートしてしまう可能性は誰でも持っています。犬たちも同じです。すれ違う犬すれ違う犬に興奮してしまう犬も、特殊なコや悪いコではないこともご理解いただけたらと思います。

まずは環境マネージメントから

行動は繰り返すことで習慣化します。歩き方や箸の持ち方、字の書き方を変えるのは難しいですよね。習慣化したことは変えにくくなります。なので、望ましくない行動はさせないこと、させる環境を作らないことがもっとも大切です。他犬に激しく反応してしまうなら、他犬があまりいないルートや時間帯でお散歩する。トレーニングだけではなく、そうした、環境マネージメント(管理)もとても大切です。まずはそこから。トレーニングを重ねて、マネージメントの割合を少しずつ減らしていことを目指していきましょう!

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