報酬ベースのトレーニングプロフェッショナルの行動改善の手順とその指針

犬の望ましくない行動、いわゆる行動問題(Behavior problem)の解決への取り組みで目指すのは、単に行動を消すことではなく、望ましい、もしくは、受容可能なものへと行動を変化させることです。

行動改善の基本プロセス

  1. 問題となっている行動とそれが起きている環境の観察と分析
  2. 問題となっている行動の代わりに犬がする行動(望ましいもしくは受容可能な行動=標的行動)の決定
  3. 問題となっている行動を減少または消し、標的行動を発現、増加させるための手法(対処方法)の選択
  4. 対処方法の実施
  5. 行動の変化を観察し、提供した方法が適切かどうかを評価し、対処方法の再考または内容のレベルアップを行なう。これを目標達成まで繰り返していく

Humane Hierarchy

Humane Hierarchyは、前回の記事でも紹介したユタ州立大学心理学部のSusan G. Friedman教授が、2008年の記事「What’s wrong with this picture? Effectiveness is not enough」で、最も建設的で、最も侵入的ではない、効果的な行動介入を実現するために、行動修正の技術をその侵入の度合いから階層化し、明確にしたもの。Hierarchy of Effective Proceduresとも呼ばれています。

Hierarchy Friedman 2008

Susan G. Friedman教授は、「Level 1が最も推奨され、Level 6は最も推奨されない。 Level 1〜4を単独または組み合わせて用いることで、大多数の行動問題は防いだり、解決することができる。Level 5は、特定の状況では道徳的で効果的な選択となる場合がある。Level 6(正の罰)は、行動変化と教育技術に関する知識を持っていれば、必要になることは稀」としています。

Level 5とLevel 6は、一時的または永続的に動物が不快・苦痛を感じる状況に置かれます。トレーニングを指導するプロフェッショナルであれば、その事実と、これらの技術の適用がもたらす行動および生活の質にもたらすマイナスの影響を十分に認識しておく必要があります。また、報酬(正の強化子 Positive Reinforcer)を使い、行動を変えるLevel 3のPositive Reinforcement(正の強化)やLevel 4のDiffernecial Reinforcement(分化強化)を使ったトレーニングであっても、犬の反応や状況に合わせて、トレーニングプラン、クライテリア、刺激、環境を細かく調整しなければ、動物にフラストレーションを与える可能性があることも理解しているべきでしょう。


Level 1.
Medical, Nutritional, Physical (Distant Antecedents) – 医学的、栄養的、物理的環境

医学的、栄養的状態や変化、置かれている状況や環境の変化などの要因を取り除く。

医学的、栄養学的指標や獣医師による診断を元に健康的な要因がないことを明確する。また、アクティビティや運動などによって心身の基本的要求が満たされているか(エンリッチメント)や、犬具や生活環境の中で苦痛や不快感を与えているものはないかなど、環境の中に行動の要因となるものがないかを確認し、要因となっている可能性があるものがあれば排除または改善する。


Level 2.
Antecedent Arrangements – 先行事象のアレンジ(工夫)

問題となっている行動が起こる環境的な条件や引き金、合図となっているものを理解し、変える、または、取り除く。望ましい行動をやりやすく、望ましくない行動をやりにくくする環境を作る。

例えば、窓の外を通る人を見て吠えるのであれば、窓に犬が近づけないようにする、犬の視線の高さまで窓にスモークを貼るなどして、窓の外が見えないようにする。


Level 3.
Positive Reinforcement – 正の強化

行動をした直後に、その犬が欲しているもの、または、その行動の労力に見合った快に感じるもの(刺激・出来事・状況)が与えられることによって、その行動は維持される、または、増加する。


Level 4.
Differential Reinforcement of Alternative Behaviors – 代替行動の分化強化

まず、問題となっている行動が強化を受けないように、その行動が起こらないようにする(マネージメント)。そして、問題となっている行動の代わりとしての役割を果たす、同じ結果を獲得できる望ましいもしくは受容可能な行動(代替行動)を選定し、その行動をその犬が実際に実行できるようにするためのスキルを正の強化を使って教える。

分化強化について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。


Level 5.
Negative Punishment, Negative Reinforcement, Extinction – 負の弱化、負の強化、消去(※この3つに特定の優先順位はない)

  • Negative Punishment(負の弱化)
    行動をした直後に、その犬が獲得を予測している、または、保持している快に感じるもの(刺激・出来事・状況)が取り除かれることによって、その行動は抑制される、または、減少する。この手続では、予測していた結果が獲得できないことにより、フラストレーションが起こる。効果的かつ人道的に負の弱化を用いるためには、強化子の引き下げを短時間にし、また、すぐに強化を獲得できる機会を提供する必要がある(Time out)。
  • Negative Reinforcement(負の強化)
    行動をした直後に、その犬が苦痛・不快に感じている刺激・状況(嫌悪刺激)が取り除かれることによって、その行動は維持される、または、増加する。行動は、危険や苦痛、恐怖を回避するために、または、そうしたことから逃避するための起こる。つまり、不快な状況から逃れられることが、行動の理由となるため、負の強化によって行動を発現・維持・増加させる場合、犬は一時的または生涯に渡って繰り返し、何らかの苦痛を感じる状況に置かれることになる。
  • Extinction(消去)
    行動の強さ、激しさや頻度を、その行動が強化を受ける前の標準的なレベルまで下げるために、その行動を維持・増加させていた強化子(維持・増加させていた行動の結果)を停止する。この手続では、予測していた結果が獲得できないことにより、フラストレーションが起こる。予測している結果を獲得するため、動物は他のそれまでに強化された行動を実行するが、それでもその結果を獲得できない場合、より強く激しく行動するようになる(消去のバースト)。フラストレーションおよび消去のバースト回避のため、消去は単独では用いない。

Level 6.
Positive Punishment – 正の弱化

行動の直後に、その犬が苦痛・不快に感じる刺激・状況(嫌悪刺激)が与えられることによって、その行動は抑制される、または、減少する。


行動に取り組むプロフェッショナルが注意すべきこと

Dr. Susanは同記事で、行動に取り組むプロフェッショナルの注意として以下のことも挙げています。

  • 常に参加者たち(犬と飼い主)の福祉を守ること
  • 個々に合わせたオーダーメイドの行動介入方法を用いること
  • 問題行動の合理的なアセスメントに基づいて行動介入を計画すること
  • 科学的根拠のある手順(エビデンスに基づく対処方法)のみを用いること
  • 行動介入の実施とその評価のために科学的な方法を用いること(例えば、介入前の基準となるデータを集める、介入を終了するまで進行中の対処データを集める)

それが(オペラント条件付けの)4つの箱(定義)のどれなのかが問題なのではない。それがどう犬の心の状態に影響するのかが問題なのだ。

Jesus Rosales-Ruiz, Ph.D.

トレーニングもマネージメントも、私たちの保護・管理下にある動物たちの快適で豊かな生活を実現し、維持・向上させるためのもの。エンリッチメントで満たされ、望ましい多くの行動を教えられた動物は、望ましくない行動をする暇も、する必要もありません。正の強化(Positive Reinforcement)に基づく適切な行動のマネージメント(トレーニングとエンリッチメントを含めたマネージメント)は、彼らの暮らしだけではなく、周囲の人や動物たちの暮らしも向上させるのです。

Dr. Susan, Thank you so much for your help also in this post!


References 参考文献

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