犬へのレッテル(ラベリング)がもたらすもの

「犬にレッテルを貼る(ラベリングする)」のは、行動のしくみを正しく理解していない人がしてしまうことのひとつ。愛犬の生活と、愛犬との関係を向上させるためのよりよい選択を阻む大きな要因です。

多くの人が、犬がした行動から受けた印象や自分が持っているイメージで、その犬にラベルを貼っています。そして、自分が犬にラベリングしている(レッテルを貼っている)ことに気付いていません。

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そして、別の行動に出会ったとき、今度は、自分が犬に貼ったラベルをその行動の理由だと考えます。

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さらに、行動を直すには、その「間違った考え方や甘え、根性を叩き直さなければだめだ※」などと考えて(もしくは、人から言われ)、愛犬が自分にとって都合の悪い行動をするたびに、犬に嫌悪刺激を与えるようになります。No!コラ!ダメ!何でそういうことをするの!イケナイ!イケナイって言っているでしょ!と睨みつけ、怒鳴る。リードを強く引く、チョークチェーンで首を絞める。叩く、蹴る…。

犬にラベルを貼ることの、何が問題なのかにお気づきいただけましたでしょうか。この図で整理してみましょう。

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行動を理由に犬に付けたラベルが、他の行動の理由となっています。つまり、行動とラベルがお互いの理由として、循環してしまっているのです。

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さらに、ラベルは、行動を見た人が勝手に抱いた印象やイメージであるにも関わらず、※部分のような概念と結びつけられ、犬に嫌悪刺激を与えてる理由になってしまいます。

ラベルに基づいたアドバイスをする人との会話は、このようになります。

飼い主:なぜうちの犬はこういう行動をするのでしょうか?
相談相手:あなたを下に見ているからです。力を示さないとなめられます。ちゃんと叱らないからいけないのです。
飼い主:なぜ下に見ているとわかるのですか?
相談相手:そういう行動をしているからです。そういう行動をするのは、あなたを下に見ているからです。だから、強く叱って、力を示さないといけないのです。

実際には、罰を与えなければいけないと考えてしまう、もっと複雑な説明をしているかもしれません。しかし、つきつめるとこのように、行動とラベルを循環させ、嫌悪刺激を与えることを肯定するための概念を寄せ集めているだけなのです。

行動に対する印象やイメージで犬にラベリングする(レッテルを貼る)ことは、行動の本当の理由からも、本当に対処が必要なことからも、目をそらさせ、さらに、犬に嫌悪刺激を与え続けることや、それを正当化することもつながってしまいます。

愛犬にラベリングをすることは、望ましい行動を増やすことにも、愛犬との関係を深めることにも、愛犬に質の高い時間と生活を提供することにも、まったく役立ちません。それどころか、そうしたことに目を向ける機会すら奪ってしまいます。

行動の引き金となるものは、「環境の中」に存在します。今起きている行動は、過去のその行動によって、「環境からよい結果が得られた」ことによって起きています。

愛犬の環境は、飼い主が提供しています。そして、飼い主自身、飼い主が提供しているもの(触ること、声をかけ、視線さえ)も、行動の引き金や、行動を維持させる結果になります。

行動が発現する原因は「犬の中」ではなく、飼い主自身と飼い主が提供しているものを含めた「環境の中」にあります。そして、行動とは、目で見て観察できるものであり、行動の引き金や結果は「刺激(状況や出来事)」です。いずれも「概念」ではありません。

行動を正しく理解するための行動の最小単位は、行動単体ではありません。前後の事象を含めたABC(Antecedent(先行事象)、Behavior(行動)、Consequence(結果事象))です(Three-term contingency)。行動の引き金は行動の直前の「環境の中」に、行動を維持している結果は行動の直後の「環境の中」に存在します。

愛犬の行動を考えるときは、愛犬の視点から状況と周囲を眺め、行動の直前と直後に、環境の中で何が変化したかを考えます。愛犬の目に飛び込んできたものはなんでしょう? 愛犬の方へ迫ってきたものはないでしょうか? 行動の後にどんなことが消えたり、遠ざかったりしたでしょう? 何かうれしいことが起きたかもしれません。

Japanese Spitz sitting, barking, isolated on white

近くにいた人が愛犬を触ろうとして、手を近づけてきたときに、愛犬が吠え、その人が手をひっこめたなら、愛犬は触られることを回避したかっただけです。顔を覗き込んだ人に、吠えたなら、顔を覗き込まれることを回避したかっただけ。吠える以外の選択がなかった(実際になかった、知らなかった、知っていても選択できない状況にあった)だけなのです。

触ろうとする人に触らないようにお願いすることは、飼い主ならできるはずです。愛犬と近くにいる人との間に自分が立つ(座る)ことで壁となり、愛犬が他の人から触れられないようにすることもできるでしょう。

正の強化(報酬)を使って、他の人から触られることを受け入れられるようにしていくことができます。その手法、手順、進め方、そして、望ましくない行動を再発させないためのマネージメント方法については、報酬ベースのトレーニングのテクニックを使うトレーナーやインストラクターから教わることができます。

愛犬にラベルを貼っていませんか? 「うちのコは○○だから」などと言っていませんか? 愛犬にラベルを貼ることは百害あって一理なし。愛犬にラベルを貼るのはやめましょう。行動の理由は愛犬の中ではなく、「飼い主である自分が提供している環境の中」にあります。

犬のトレーニングや行動のアドバイスを取り入れるときは、犬にラベルを貼っていないか、概念が行動の理由や説明に含まれていないか、行動とその理由が循環していないかを確かめましょう。

資格を持っていても、長く犬やトレーニングと関わっていても、行動を科学的に正しく理解しているとは限りません。いいトレーナーやインストラクターは、どうすれば犬を変えられるかではなく、飼い主がどう変われば、犬が成功できるかを教えます。

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The Smart Dog Owner Academyでは、ラベリングとその弊害について、さらに詳しく解説します。

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