愛犬の成功を助けるための環境づくり – マネージメント

行動は繰り返すことで学習され、定着していきます。望ましくない行動はやりにくく、望ましい行動をやりやすい環境を作ることがトレーニングの基本となります。こうした愛犬の成功を助けるための環境作りをマネージメントといいます。

望ましくない行動への対処は、その行動を起こさせないためにどうすればいいかを考え、環境を整えることから始まります(マネージメント)。その上で、犬が私たちが望む行動(もしくは許容可能な行動)を選択した方が得だと考え、選択するよう仕向け、スムーズに実行できるよう練習していきます(トレーニング)。

愛犬の困った行動。行動が起きてからの対処ばかりを考えていませんか? 行動を起こさせてしまっている時点で、その望ましくない行動を学習させ、定着させる機会を提供していることになります。まず考えるべき、取り組むべきなのは、望ましくない行動を選択させない環境づくりです。新たな行動を教える場合や生活習慣を身に付けさせたい場合も、スムーズな学習を助けるためにマネージメント(成功させるための環境作り)は不可欠。マネージメントなくしてトレーニングの成功はありません。

「環境づくり」「環境を整える」なんて言われても、なかなかピンとこないと思います。どんなことがマネージメントで、トレーニングにどう役に立つのかを実際のトレーニングエクササイズの動画をご覧いただき、解説したいと思います。

ご紹介するのは、以前おすすめしたiOS App「Dog Park Assistant」を作ったSue Sternbergが、シェルターの犬たちとスタッフのために提案しているトレーニングエクササイズです。

シェルターにいる犬たちは、シェルターにくる前からそうであって、そうでもなくても、退屈とストレスを抱えるシェルターの生活の中で、人が来て食事を出してくれる、人が来て散歩に連れ出してくるといった「人が来る→刺激的なことが起こる」というパターンを繰り返し経験し、人が来ると興奮するという習慣をどうしても身につけてしまいがち。このトレーニングはそうした習慣を改善することを目的としたもの。

え?これがトレーニング?とお思いになった方もいらっしゃるかもしれませんが、犬がよい選択とよい学習経験ができるよう様々な工夫とテクニックが盛り込まれています。では、解説していきます。


※「」内はこのトレーニングエクササイズの解説記事から抜粋して日本語訳したものです。


トレーニングの目的

「犬に人の前でも落ち着き、リラックスし、うたた寝をすることを教えること」をゴールとしています。人がいても落ち着いていられたという経験を重ねることを目的としています。落ち着くのははじめはほんの数秒でもかまいません。少しずつ落ち着けるまでの時間は短く、落ち着いている時間は長くなっていきます。大切なのは成功を重ねること。

強化の対象

私たちは犬の気持ちや感情の変化、つまり、犬の中、皮膚の内側で起きていることは、観察することも、計測することも、操作することもできません。しかし、その気持ちに伴って、皮膚の外側に現れるボディランゲージや行動は、観察計測することができ、そこから犬の気持ちや感情の変化を推測することができます。また、行動は環境を操作することによって変化させることができます。

行動に時間的に続いて起こる出来事が、行動主にとって満足できるものであった場合、その行動の再現性と確実性が高まります。これを「強化」といいます。落ち着く、リラックスするというのは、気持ちですが、それには筋肉の弛緩が伴います。筋肉を弛緩させやすい姿勢である「横になる」という行動を強化の対象としてトレーニングをしています。

報酬(強化子)

報酬として使うのは、「人が意識を向けること」と「なでること」。「やさしく犬を見て、いいこだねと声をかけながら、背中をしっかり大きくゆっくりなでる」とトレーニング手順の中で解説されています。(動画では少し違っていますが)この注意すべてが重要。犬を興奮させないことがこのトレーニングでは重要だからです。

キュー(合図)

このトレーニングは、人の出す合図に反応して行動ことや、すばやく反応することを求めているものではないので、言葉のキュー(合図)を付けるステップは含まれていません。しかし、このトレーニングを繰り返すことで「人がイスに座っていること」やマットや毛布が「横になること」のキューとして働くようになる可能性はあります。(環境のキューといいます。)

トレーニングの方法

椅子に座り、犬が横になるのを待つ。犬が横になったら、すぐに見て、褒め言葉をかけ、背中を大きくしっかりゆっくりとなでる。

トレーニングの基本的な部分はこれだけ。非常にシンプルです。しかし、ただ人が椅子に座り待つだけでは、私たちが強化したい「横になる」という行動が起こるかどうかさえわかりません。その行動が起きる前に私たちが望んでいない行動を選択したり、繰り返してしまう可能性がありまか。それではトレーニングは成立しません。

マネージメント

犬に望ましくない行動を選択させずに、このトレーニングで強化の対象としている行動「横になる」という行動を、犬が自ら選択しやすくするためのさまざまなマネージメント(環境作り)が行われています。

・トレーニングを実施する場所の選択と設定

どんなトレーニングでも、必ず犬が冷静に考えられる環境で、練習を始めます。その犬が緊張したり、気になってしまう刺激が少ない場所、慣れた環境を選びます。気になるものがある場合には、遠ざけたり、目に触れないようにします。

新しい行動を覚えるのと、それをいつでもどこでもできるようにするのはまったく別のトレーニングです。気になるものがあったり、慣れない場所での練習は、刺激の少ない場所で、スムーズにその行動ができるようになったあとで実施します。

このトレーニングエクササイズでは、「静かな室内」を選択することを必須としています。「室内に静かな場所が見つからなければ、バスルームでもいいでしょう。トイレは腰をかけるのにちょうどいいですが、その場合あなたはパンツをおろす必要はありませんよ!」と記事には書かれています。※日本ではトイレとお風呂は別ですが、アメリカでは同じ空間にあるからです。

・ハンドリング

このエクササイズの鍵といってもいいのが、リードとそのハンドリングです。

行動を強要せず、かつ望ましくない行動をさせないためのマネージメントがなされています。犬は立ったり、座ったり、伏せたり、数歩移動することはできますが、ハンドラーに飛びつくことや遠くに行ってしまうということはできない状況を「リードを付け、その長さを調節すること」で作っています。

「12インチのリードを用意し、アコーディオンのように折り畳んで長さを調節して握る。自分が椅子に座った状態でリードが少し緩むような長さにする。両手は自分の膝の間にはさみ固定する。」

動画中で少し興奮してハンドラーに飛びつくこうとする行動が何度か見られます。そのときのハンドラーのリードハンドリングに注目してもう一度ご覧になられるといいでしょう。飛びつこうとする行動に対して、強く引いて嫌悪刺激を与えたり、無理矢理引き戻す、行動を強要することもしていません。飛びつくという行動が成功しない長さにリードを持ち、それを保っています。

飛びつくという行動は、行動そのもののが犬の報酬となりうる可能性が高い行動。飛びついた後に無視をしたり、嫌悪刺激を与えたりしても、犬はその行動をした時点で報酬を得てしまっているので、行動を減らすことが難しいので、飛びつくことができない状況を作ることが大切です。また、リードを引き戻して、首にプレッシャーをかけたり、嫌悪刺激を与えることは、犬を興奮させる原因となります。

・ハンドラーの行動

「犬に意識を向ける」ことを報酬として利用するために、また、「横になる」以外の行動を強化してしまわないためにも、目的とする行動「犬が横になる」以外の行動には一切反応しないことが重要です。犬を見ること、声をかけるかけること、指示や叱ることも、一切しません。

犬がハンドラーの足や靴を噛むような場合は、リードを引き上げ噛んでいる対象からすぐに離しますが、リードを引き上げるのは罰として使うのではなく、その行動を実行させないためなので、強く引いたり長時間引き上げるようなことはしません。噛もうとするならそこからすぐに離す。口を離したら、すぐにリードを緩めるを繰り返します。

・マットや毛布

トレーニングのために必要なものとして「ベッドになるようなタオルやブランケット」が挙げられています。これも、犬かくろぎやすく、横になるということを行動を選択しやすくするための環境作りです。

堅いフロアよりも、毛布やクッションなどのフワフワしたものの上の方が、心地いいし、リラックスできますよね。犬たちだって同じ。長時間フセているのもずっと楽なはずです。ただし、暑い時期は、逆に冷たいフロアの方が心地よくフセの姿勢を選択しやすくなるかもしれません。


マネージメントの大切さ

犬の成功を助けるために様々なマネージメントがなされていることをご理解いただけましたでしょうか。マネージメントは、犬の視点に立って、状況や環境を見渡し、望ましい行動を犬が選択しやすくなるよう環境を整えること。犬を縛るために管理することではありません。

外出するときに付けるリードも、ただ犬に付けているだけではいいマネージメントができているとは言えません。ご自身のリードの持ち方、扱い方、長さへの意識を思い出してみてください。

リードの端を持って、手をブラーン。方向転換したいときや愛犬が吠えたら突然リードを引っ張って犬を引き戻したりしていませんか。

長いまま他の人や犬のそばを通ったりする方も多いですね。本当に残念です。愛犬を被害者にも加害者にもしてしまうリスクを飼い主が高めてしまっているのです。リードは状況や環境にあわせて長さを調節して持つもの。あらかじめ愛犬にいてほしい範囲の長さ、他の犬に近づかないだけの長さで持っていれば、他の犬を不安にさせてしまうことも、愛犬をダメ!No!と叱ったり、リードで引き戻したりすることもありません。他の犬や人とすれ違う時、そばを通る時、あなたが間に入るようにすればより、愛犬は安心でき、望ましくない行動は起こりにくくなります。

あなたのリードの扱い方への意識ひとつでも、愛犬は望ましい行動を選択でき、安全でいられる時間が増えます。愛犬のためにできること、知っておくといいことはたくさんあります。ぜひ知識と意識を高めて、大切な愛犬ともっと仲良く、もっと心地いい時間を過ごしてください。


ご紹介したトレーニングエクササイズについて、さらに詳しくお知りになりたい方はこちらのオリジナル記事をご覧ください。ちなみに、記事には同じエクササイズの別のペアのトレーニング動画が掲載されていますが、そちらはハンドラーがリードで行動を促してしまっているので、参考としてはおすすめできません。

Reference: The Nothing Exercise – Sue Sternberg’s Train to Adopt


一部の解説を行動の科学に則した表現へと修正しました。(2014.3.27)

, , , ,