望ましくない行動が起きた時にすべきこととできること(マズル(口輪)トレーニング)

昨日、シッターの方に向けたセミナーをさせていただきました。(ペットシッタースクールの皆様、卒業生の皆様ありがとうございました!)セミナーの後、多くの方にご質問をいただきましたが、その中でも多かったのが、犬の噛みにどう対処すればいいのかということでした。

もちろん、行動と環境を観察して分析しなければ、何が行動のきっかけなのか、何によってその行動は維持されているのか、その犬がどんな助けを必要としているのか、どんな環境をどう変えるべきか、どの刺激への条件付けをどう変えていくべきか、どんな行動とスキルをどんな方法とステップで教えていくかを決定することはできません。行動のトポグラフィー(「噛む」という行動の外観)だけでは、行動の理由は決してわかりません。行動の前後の環境を注意深く観察しなければ、適切な対処方法を選択することはできません。

しかし、どんな行動の問題においても、必ずすべきことがあります。そして、自分の見方や対処方法についても自分自身で改善できることがあります。それをご紹介したいと思います。

健康の問題を排除する

疾患によって過敏になったり、痛みや痒みを感じていないか、獣医師に健康・栄養の面で問題ないかを確認してもらう必要があります。何か見つかれば治療や改善のための対処を。

苦痛・不快の排除する

苦痛に感じているものを排除します。苦痛や不快に感じるかどうかを決めているのは、私たちではありません。その犬の脳です。人がかわいそうだと思うかどうかや、このくらいは大丈夫、他の犬はできているから大丈夫ということは、犬が苦痛に感じているかを判断する理由にはなりません。

その刺激、状況、出来事が、その犬にとって不快なものかどうかは、その犬のボディランゲージを観察します。その刺激(物、状況、出来事、動物、人、人の動作等)を犬が知覚した(見た、感じた)ときに、 舌をぺろっと出す、あくびをする、耳を後ろや横に強く引く、固まる、くじら目(Whale eye, half-moon eye, 白目の部分が三日月のように見えている状態)、口を強く閉じている、顔・体の筋肉を固くする、しっぽを足の間に入れるといったことがあれば、不快や苦痛に感じている証です。それにまず気づくこと、そして、気づいたらその段階で、その刺激(自分がしていることも含まれます)を排除する。そこで無理強いすれば、攻撃へのはしごを登らせることになります。犬に無理強いしたり、犬を恐怖にさらすことは、何もいいことをもたらしません。

望ましくない行動を起こさせない環境を作る

行動は繰り返せば繰り返すほど、強固になり、消えにくくなります。望ましくない行動をさせない環境を考え、作ります。

犬にレッテル(ラベル)を貼らない。行動の理由や犬を決めつけない

行動の理由は犬の中ではなく、環境の中にあります。犬にレッテル(ラベル)を貼ると、事実ではなく、レッテルを貼った人の意図に基づいた結論へと導き、効果的でないばかりか、状況を悪化させたり、犬に害を及ぼす方法を選択してしまいます。

望ましい行動を犬がした時に、それに対して自分がどんな結果を出しているか考える

望ましくない行動は簡単に目に止まりますが、自分がしてほしいことを犬がしてくれたとき、してくれているときに人は気づいていない、もしくは、それを当たり前のことと考えている場合が、よーーーーーーーーーーくあります。例えば、呼んだときに近くに来てくれた、オスワリと言ったら座った。そんなとき、あなたは何をしているでしょうか? あなたはその行動の直後にその犬にとって何かいいことを起こしているかを考えてみましょう。してくれることを当たり前と考えていませんか? 自分にとってうれしいことをしてくれたのですから、相手にとってもうれしいことをする。それが、双方向のコミュニケーションです。一方的にひたすら頼み事をしてくる友人と、あなたはずっと一緒にいたいと思いますか?

食事をフードボウルからあげると決めつけない

私たちは行動を強化することができる食べ物という一次強化子(Primary Reinforcer)を提供できるというすばらしい機会を持っています!生かさない手はありません。1日に与える食事の総量をすべて計量してその中から、25〜50粒、もしくは、1/3 の量を密閉容器に入れて、分けておき、犬は届かないけれども、人は簡単に手に取れる場所に置いておきます。いいこだなと感じる行動をしたときに、すかさずそこから犬にフードを一粒あげるということをやってみましょう(SMART x 50の簡易バージョン。オリジナルの方法についてはこちら)。もちろん、トレーニングタイムに使うのもOK!人の手を噛んでしまう犬の場合は、フードやトリーツは床に落としましょう。人が怖いという犬の場合はトリーツをやさしく放りましょう。手から食べることを無理強いする必要はありません。何度も何度も繰り返してれいば、手はいいものへと変わっていきます(古典的条件付け、CC:逆条件付け)。密閉容器を1日で空にすることができなければ、それは愛犬のいい行動を見逃している証です。あなたが、犬のことが気にならないとき、それはつまり、あなたにとって望ましい選択を犬がしているということです。いい行動を見つけ、その犬が喜ぶことを提供して評価するという習慣を身につけましょう。

そして、噛むという行動が出ている犬の場合、これに加えてすべきことが3つあります。

他のこと・方法で口を使わせる

噛んでいいおもちゃを提供したり、食事をKONGなどの噛んだり、舐めたり、口で持ち上げたりしながら食べられるフードパズルからあげるようにします。別の方法で口を使う機会を提供しましょう。適切なルールに基づいた引っ張りっこ遊びは、口をコントロールすることを学ぶ機会になりますが、噛むという行動をすでに起こしている犬に対しては、安全に遊ぶことができるかどうか行動を観察して慎重に判断する必要があります。

物々交換の習慣

犬が持っているもの、関わっているものを取り上げようとしない。別のおもちゃやトリーツなど、その犬が好きなものと交換にする(ちらっと見せてすぐに離れた場所に投げる。取りに行っている間に犬が落としていったくわえていたもの、もしくは、関わっていたもの(フードボウル等)を片付ける)。ボール遊びをするときはボールを2つ用意して、近くまで戻ってきたら次を投げる。おもちゃを片付けるときは、トリーツを提供して終わりにする。詳しくはこちらのポスターを。

マズル(口輪)をつけられるようにする

もちろん、その犬が苦痛に感じていることを取り除くことが何よりも大事なので、噛むという反応を出させる刺激(もの、できごと、状況)を特定して、その刺激との関係を再構築していく必要があります。でなければ、望ましい行動が起こり続けるだけではなく、その犬の生活が改善されません。しかし、望ましくない行動を未然に防ぐこと、周囲の人や動物の安心と安全を守ること、そして、その犬の健康を守ることも、非常に重要です。獣医師の診察や必要なケアを受ける必要があります。外出の際に万一の事故が起こらないように備えることも重要でしょう。ですから、ぜひマズル(口輪)をつける練習をします。もちろん、「その犬にしてほしいことを、その犬にとってやりやすく、その犬にとってしたいことにする」ポジティブな行動支援の基本に沿った方法で

マズル選び

マズルは、パンティングしたり、水を飲んだり、トリーツ(フード、おやつ)を食べることができるよう、このようなバスケットタイプのものを選びます。

マズルの装着を教える方法とステップ

1. マズルをトリーツ(フード)とセットにして提示する

マズルの登場(視覚的刺激)→トリーツ(いいことが起こる)を繰り返す

マズルという存在(刺激)をその犬にとっていいもの(快に感じるもの)にするためのステップ。方法はいくつかあります。後ほど参考動画をご紹介します。

2. マズルに自ら顔を入れると、いいことがあるようにする

マズルに顔を入れるという行動→トリーツ(いいことが起こる)を繰り返す

マズルに顔を入れるという行動をその犬にとっていいもの(快に感じるもの)にするためのステップです。マズルに顔をいれるかどうかを犬が決められる環境を作り、犬が自ら選択して顔を入れたら、その選択よってトリーツが獲得できるようにします。

最初は、マズルを手のひらで支えるように持ち、マズルの隙間からトリーツを食べられるように、手の平の上にトリーツを置きます。そして、犬が顔を入れやすい位置と角度で提示します。何度か繰り返したら、マズルだけを手に持って提示。顔を入れたら、トリーツを食べさせます。

マズルを犬の方に押し付けないように気をつけましょう。名前を呼んだり、指示を出したり、やることを急かすような声かけをしない。マズルに顔をいれるかどうかを決めるのは犬です。あなたの仕事はあくまでも提案。やらせることではありません。押し付けは厳禁です!

犬が顔を入れやすい位置と角度でマズルを提示し、10秒待っても犬が顔を入れることを選択しなかったら、マズルを乗せた手を一度背後やテーブルの上などに引っ込めます。5秒間そのまま動かず、何も言わず、犬を見ずにいます。そのあと、もう一度マズルを持った手を犬に提示します。これを2度繰り返しても犬が顔を入れるという選択をしない場合は、その段階がまだその犬にとって難しすぎるということです。十分に休憩をとったあと、もしくは、翌日以降に、トリーツありでマズルを提示している場合はステップ1を、トリーツなしでマズルを提示している場合はトリーツありの段階を、もう一度反復(5〜10回)してから、再チャレンジしましょう。

練習する(トレーニング)場所や自分の姿勢といったことも、犬の行動に影響を与えます。どうしたら求めている行動がやりやすくなるか、犬の視点に立って考えてみましょう。手を噛んでしまう犬は、マズルを手で持たず、マズルの大きさにあったのカップやボウルにマズルを入れて膝の間や足で挟むといいでしょう。それでも顔や体のどこかを噛もうとする場合は、すぐに練習(トレーニング)を中止して、トレーナーに相談しましょう。

3. マズルが完全にその犬にとっていいものになってから、ベルトをつける

マズルを持って待つ→犬が顔を入れる→ストラップを操作する→トリーツを繰り返す

マズルに顔を入れたまま、頭の後ろを触られて、ストラップを固定されても快適でいられるようにするためのステップです。いきなりベルトをはめるのではなく、まずマズルをしたまま頭のうしろをさわられるといいことがある、つぎに、その手が動くといいことがある、ベルトをしめるといいことがあるというふうに、ベルトをつけるという状況を細切れにして、ひとつひとつをいいこと(トリーツ)と組み合わせ、反復し、結びつけていきます。

4. マズルに自ら顔をいれ、ベルトをつけた後で、いいことが起こるようにする

マズル持って待つ→犬が顔を入れる→ストラップを固定する→トリーツ→ストラップを外す→トリーツを繰り返す

マズルの脱着を快適にするためのステップです。

5. マズルをつけるといいことがはじまるようにする

マズルを付けている間にいいことが起こるを繰り返す。継続的に続ける

マズルを身につけ続けることを快適にし、また、マズルを身につけることが、嫌なことの始まりを予感させるものにならないようにするためのステップです。マズルをつけたら、ゲームスタート!マズルを外したらゲームタイムは終わりになるというルールで遊びます。

※ご紹介する動画はゲームのやり方を紹介しているものなので、登場している犬たちはマズルをつけていませんが、マズルをつけていても同じように遊べます。

ネームゲーム

名前→トリーツを繰り返すだけ。

by Debby Jacobs

多頭の場合はこんな感じで。ただし、他の犬に対して不安を抱えていたり、現在の環境にまだ慣れていないような場合は、既出の方法で、他の犬はその空間に入ってこないような環境を整えてやりましょう。

by Sarah Owings

キブルトス

トッテ!といって犬がいる方と反対の方向にドライフードや小さなトリーツを投げる。 この動画の中では、雨の日に最適なお家ゲームのひとつとして登場しています。

by Sarah Owings

こちらはフードばらまきスタイル

キブルハンティング

ドックフードや小さなトリーツを部屋や庭のあちこちに隠して、探して!と言って探させる。

モッテキテ

前述のマズルであれば、おもちゃの形状によってはくわえることができるので、でモッテキテ遊びができます。

クリッカートレーニングももちろんvery good!


マズルの存在やマズルを付けることが嫌なことを予測するものにならないようにするために、マズルをつけたら、病院に連れて行かれるというパターンを作らないようにします。犬がマズルに慣れても、ステップ4を続けましょう。毎日それをする時間を作ってもいいですし、週に数回でも構いません。とにかく続けること、プラスの経験を積み重ねておくで、嫌なことが起きてしまったとしても、Trust Accountを破綻させずにすみます。強化の歴史は裏切りません。

病院に連れていくときには、可能な限り他の犬や人がいない時に行き、待合室では他の人や犬から最も離れた席に犬を自分の体を衝立のようにして守るようにして座り待ちます。診察を待っている間も診察がはじまってからも、その犬が大好きなトリーツを少量ずつあげつづけましょう。診察がすべて終わった後や家に帰った後でトリーツをもらっても、病院、診察、獣医師といいことを関連付ける(結びつけて考え、学習する)ことはできません。その場で、その刺激を知覚している最中からいいことを起こし(トリーツをあげ)始める(Delay)もしくは、直後(Trace)にいいことを起こす(トリーツをあげる)ことが 重要です。(CS(条件刺激)とUS(無条件刺激)を同時間同時に提示した場合、CS(条件反応)の生起は低くなります。Simultaneous(Smith &Gormezano, 1965; White & Schlosberg, 1952))診察や検査の内容によっては、食べ物を与えてはいけない場合があるので、事前に獣医師にトリーツをあげてもいいか確認しておいてください。トリーツも食べられないような状態の場合は、往診してもらう、診察の時間まで車の中で待機するといった選択がいいでしょう。その犬がその獣医師や病院に強い嫌悪を持っているような場合は、別の獣医師や病院を探すということを検討するのもよい選択でしょう。そして、1日も早く、いいトレーナーを見つけ、指導を受けましょう。

繰り返します!無理強いからは何もいいことは生まれません。時間をかけ、毎日少しずつ進めていきます。強化しすぎるということはありませんので、提案した環境に対してそれを犬が選択しないときは、また日を改め、前のステップに戻り、しばらく繰り返してから、次のステップに進みます。次のステップに進めないのは、決して犬のせいではありません。設定している環境(クライテリア)がその犬にとって難しすぎるということです。

マズルをつけることが犬にとっていいものになるように手伝います。このプロセスを丁寧に進めれば、単にマズルを快適に付けられるようになるだけではなく、犬にとっては単なるゲーム、遊びとなり、楽しい時間を過ごさせることができます。また、飼い主の存在や動作などにもいい印象を持つようになります。

参考動画

ステップ1の例

The surprise muzzle party

犬が思いもよらぬところで、マズルを登場させて(犬から見える場所に置き)、トリーツを一粒ずつ次々に口の中へ。トリーツをもぐもぐしている間にマズルを片付ける。トリーツは床に撒いてもOK。

by Maureen Backman

Muzzle Up Video Training Series Part 1

マズルを床においてから、トリーツを床に撒く。しばらく繰り返したら、別の種類のその犬が大好きなトリーツを使って、マズル登場→トリーツ。
前半は説明。トレーニング映像は5:30くらいから。

by Maureen Backman

いずれも食べ物を探している、もしくは、口の中にまだフードがある段階で片付けるのがポイント(古典的条件付け, Classical Conditioning – Delay )

Teaching A Dog To Wear A Muzzle (Muzzle Training)

ステップ1〜4のプロセスをさらに細かいステップに分けてすすめています。マズルをはめずに、首にストラップをかけるだけのステップも。ストラップをはめるとき、ストラップがかかっているとき、ストラップを外すときをそれぞれトリーツと組み合わせています。刺激を細かく分けて、ひとつひとついいことと組み合わせて進めていくのが、いいトレーニングです。

by Chirag Patel

The Muzzle Up Project

The Muzzle Up Projectのfacebookページには、マズルをつけて楽しんでいる犬たちの様子やトレーニングをしている様子などがupされています。

望ましくない行動が起きているということは、よい環境を作れていないということ。噛むという行動が出ている場合は特に、その行動を防ぐ環境を作り、いいトレーナーを見つけ、1日も早く指導を受けることを強くおすすめします。人が困っているとき、犬はもっと困っていると考えてください。

いいトレーナーは、犬にラベル(レッテル)を貼って、そこから方法を導き出すようなことはしません。ひとつひとつの行動とその環境を観察し、分析し、説明します。行動を消すことをゴールにしません。すべてのトレーニングプロセスと方法を飼い主に開示します。明確な倫理基準を持っています。犬がどんなことを苦痛に感じているかを説明します。犬の暮らしがよりよくなるためにはどんな環境改善が必要なのかを伝えます。飼い主が見落としてしまっていることや、犬がよりよい選択をし、よりよく暮らすのをどう手伝えばいいのか、どんなスキルや視点を持てばいいかを飼い主に指導します。その犬が嫌悪に感じること(痛みや言葉による脅しや懲らしめ)を与えることや、嫌悪に感じていること(他の人や犬)にもっと触れさせなければいけないなどということはありません。

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