犬の要求、大切なのは応え方

行動問題と人々が呼ぶことの多くは、犬にとってはごく自然な行動。必然性があり、合理的な選択です。

行動のしくみ

こちらは、行動のしくみを舟で現した短いアニメーション。

Increasing Behavior: Start Your Engines
by Behavior+ Works

行動(Behavior)という舟は、海という環境(Antecedents:きっかけや背景)があってこそ、動くことが可能になり、そして、過去に行動によって得た結果(Consequence)が、エンジンとなり舟を動かす。海とエンジンがなければ、その舟が動くことはないのです。

つまり、望ましくない行動は決して、犬が勝手に生み出しているのではなく、その行動を選択することになったきっかけ(背景)と、その行動によって利益が得られたという経験(類似する経験からの予測)の存在によって、生まれ、繰り返されているのです。

愛犬の行動のきっかけ(背景)も、行動によって得られる結果も、その多くは、飼い主が提供しています。どんな生活環境を作っているかということから、いつ、どんな風に食事をあげるか、いつ、どれくらい、どんな遊びを提供するかや、いつ、どのくらい愛犬に視線を向けているかということも。私たちの選択や行動は、愛犬の行動のきっかけ(背景)を生み、行動に対する結果となるのです。

要求や欲求があるのは当然のこと

犬だって生きています。心身の健康を維持するために、必要なことがあり、また、快適さや楽しみを求めるのも当然のこと。

愛犬が、ともに暮らす飼い主に何かを要求する(お願いする、頼む)ことは、決して悪いことではありません。問題なのは、その伝え方です。吠える、大事な物をくわえて逃げる、飛びつくなどは、(特に、人間社会においては)好ましいお願いの仕方とは言えません。こうした行動にも、当然飼い主の選択と行動が関わっています。

心身を満足させる遊びや運動が不足していたり、不安や恐怖などによる精神的なストレスや、暑すぎる寒すぎるなどの肉体的なストレスは、「心身の健康を維持するために、要求や欲求を満たすための行動のきっかけ(背景)」になります。

犬の生活環境は、飼い主の選択と行動によって生み出されています。犬からの要求があってから提供するのではなく、要求があるまえに、心身の健康を維持するための、遊びや運動、環境を提供しましょう

行動の再現性や頻度を高める「行動の結果」も、飼い主が提供しています。

愛犬に飛びつかれたら、抱っこする。後ろ足だけで立ち、前足を飼い主に掛けている状態で、おやつをあげる。

そうした、飼い主の反応や行動は、愛犬にとって満足できる結果ですから、飛びつくという行動は強化されます(再現性や頻度が高まる)。つまり、飼い主が愛犬に飛びつくことを教え、それを繰り返すように仕向けているということです。

「そんなことはしてません。ちゃんと叱ってます」という方!叱ること(大きな声を上げる、「いけない」「No」などと言いながら睨といったあなたの行動)が、行動を強化している(再現性と頻度を高めている)可能性があります。

犬が、自分に意識を向けてくれることを望んでいれば、あなたは罰を与えているつもりでも、実際には犬が望んでいる結果を提供していることになり、行動は強化されます。また、叱ることが弱化子(直前の行動を抑制・減少させる結果事象)として機能していたとしても、苦痛やストレスを与えることになり、別の望ましくない行動を生み出す可能性(きっかけ(背景))を作ることになります。

「要求は無視する。」これもよく聞く方法です。行動を強化するような、犬が得することを結果として与えないことによって、行動を減少させようというもの。学習理論に即しています。しかし、その行動を無視するだけでは成功しません。なぜなら、その時その犬が抱えている要求や欲求が消えるわけではないからです。さらに、激しく行動するか、他の行動でそれを獲得しようとするだけです。必要な要求や欲求であれば、満たされないことで精神的・肉体的な苦痛やストレスは増すでしょう。「その代わりにどうすればいいのか」「望ましくない行動の代わりに実行する望ましい行動」を教えることが必要です。無視だけでは、成功しません。苦痛やストレスと別の望ましくない行動を増やすだけです。

要求のための行動を教える

愛犬に、お願いごとがあることを伝えるための手段を提供しましょう。静かで落ち着いた特定の行動を「お願いがあるんだけど…」という意味の、愛犬と自分との共通言語にするのです。特定の行動は、膝にあごを乗せることでも、フセでもかまわないのですが、教えやすいのは「オスワリ」です。「要求吠え」「要求飛びつき」ではなく、「お願いのオスワリ」で、気持ちを伝えてもらいます。

「要求オスワリ」を教え方:

犬が、何を求めているかが明確な状況(おやつがほしい、ドアから外に出たい、抱っこしてほしい、くわえているおもちゃで遊んでほしいなど)で、常に次のように対処します。

  1. 犬が「オスワリ」をするまで静かに待つ。
    ※犬に指示を出したり、声をかけたり、見つめたりしない
  2. 「オスワリ」をしたら、求めていることに応える。
    ※動作はゆっくりと。途中で床からお尻を離してしまったら、提供しようとしているものをひっこめる。実際の様子は後ほどご紹介する動画でご覧いただけます。

これを繰り返すことで、犬はお尻を床に付けると、望みが叶うぞ!ということがわかり、お願いごとがあるときには、オスワリをすれば伝わるんだと思うようになります。犬が理解したら終わりではなく、愛犬のリクエストに応えるときのルールにします。

【注意】強い緊張下、不安下では、脳も身体もそれを回避することを最優先させます。動物病院、知らない人や犬が近くにいるなど、愛犬が緊張したり不安になっているときに、十分な事前練習なく、行動を求めることは、犬を失敗させてしまうだけ。マイナスの経験をさせるだけです。そうした環境で、無計画に練習したり、行動を求たりしないこと。

セルフコントロールも身につけさせられる

ただ興奮しているだけでは、オスワリという行動は出ません。衝動を抑え、自分で考えなければ、自発的にオスワリをするという行動を選択することできません。「お願いのオスワリ」を教え、習慣にすることは、やりたいことやほしいものを目の前にしている状況下で、自分をコントロールする機会を提供することになるので、自制心を強め、習慣にすることにもつながります。

こちらの動画が、「お願いのオスワリ」を教えるのに役立ちます。解説は英語ですが、わからなくても問題ありません。犬の行動とそれに対して人がどう反応、行動しているかをよく見てください。

Impulse control – teaching the dog calm and polite manners
by Jennifer Cattet, Ph.D. (Smart Animal Training System

「お願いのオスワリ」の教え方は、とてもシンプルです。また、「そのとき、その犬がの望んでいることが叶うのは、行動に対する最大かつ最高の報酬(結果)」なので、効果的にトレーニングできます。

愛犬がなかなか自発的なオスワリをしてくれない、いつまでも自発的なオスワリが習慣にならないといった場合は、報酬ベースのトレーニングを教えるトレーナーやインストラクターに相談してください。環境づくりや教え手(飼い主)の判断や行動に、思いもよらない見落としがあることがあります。教える方法も色々あります。犬によっては、さらに工夫やサポートが必要な場合があります。できないと決めつけずに、プロフェッショナルにご相談を。

「お願いのオスワリ」がスムーズにできるようになったあとも大切。犬が「何かを伝えたいときはスワレばいいんだ」と気がくと、色々な場面で「オスワリ」を使って気持ちを伝えてくるようになります。ぜひ、その控えめで自制の効いたその選択を見逃さず、応え、評価してください。愛犬が望んでいることに、その場で犬が求めていることに応えられない場合は、何か他の、犬にとっていいことを、例えばやさしい穏やかな声で褒める、撫でられたらうれしいところを撫でるなど、小さなことでもいいので見つけて、提供してください。

犬たちはいつも、そのときにできる、最大限のことをしています。彼らは、多くの場面で私たちに協力し、人間の生活に合わせてくれています。どうぞ、そのことを忘れないでいてください。彼らに必要なのは、罰ではなく、理解と手助けです。

(動物の)行動に介入する場合の目的は、問題となっている行動を減らすことだけではない。問題となっている行動によってもたらされている効用を、別の受容可能な行動によって動物が得られるようにし、また、問題を起こりにくくするための新たなスキルをその動物が習得する機会を提供するための、環境の物理的社会的状況を再設計することが、望ましいプランである。

-「Functional Assessment: Hypothesizing Predictors and Purposes of Problem Behavior to Improve Behavior-change Plans」(Susan G. Friedman, Ph. D.) より

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