飼い主のスキルアップと犬のエンリッチメントを同時に叶える習慣 SMART x 50

報酬(正の強化子、Positive Reinforcer)を使って、行動を教える・変えるトレーニング(Positive Reinforcement Training)を成功させる上で、不可欠なスキルに

  1. 望ましい行動を見つける
  2. その行動を実行しているときにマークする
  3. その行動の直後に適切な正の強化子(報酬となる、その行動の努力に見合った、その犬がその時に好ましいと感じるもの)を提供する

があります。

トレーニングは、シンプルである。しかし、簡単ではない。

Bob Bailey

この言葉の通り、実はこの3つのコア・スキル、シンプルですはありますが、簡単ではありません。できる人は多くはないのです。なぜならば、一般的な教育や生活の中では、私たちはこうしたことを教えられる機会も、うまくできるようになるまで反復する機会もないからです。

SMART x 50

そこで、おすすめするのが、この3つのコア・スキルを身につけながら、望ましい行動を増やし、かつ、犬に強化を受ける (自らの選択によってよい結果(正の強化子)を獲得できる)機会を提供できて、犬のエンリッチメントにもなる「SMART x 50」です。SMARTは、See, Mark and Reward(Reinforcement) Trainingの頭文字。日本語にすると、「(望ましい行動を)見つけて、マークし、報酬を提供する(行動を強化する)トレーニング」。そう、前述した3つのコア・スキルそのものを示しています。

SMART x 50は、Kathy Sdao氏が著書「Plenty in Life Is Free: Reflections on Dogs, Training and Finding Grace」で提案している「毎日50回、犬の望ましい行動を確実に強化する」方法。シンプルなルールで、新たに道具を購入するものもなく、誰でも、いつでも始められる習慣です。

SMART x 50のルール

犬が望ましい行動をしているときに、それをマークして、すぐにドライフードを1粒提供する。これを1日に50回行います。

これで毎日50回、

  1. 望ましい行動を見つける
  2. その行動を実行しているときにマークする
  3. その行動の直後に適切な正の強化子(報酬となる、その行動の努力に見合った、その犬がその時に好ましいと感じるもの)を提供する

を反復することができます。

望ましい行動とは?

普段の生活の中で、かわいいな、いいこだなと感じる行動です。かわいい、いいこだなと感じるのは、それが私たちの望みに叶っている、好ましいと感じる行動だから。私たちの期待に犬たちが応えてくれているからです。つまり、犬たちが、私たちが快適な気持ちになれる環境(状況)を作ってくれているということ。私たちが自分がしたいことに集中できている時も、犬たちは望ましい行動をしています。ぜひ、そのことにも気づいてください。

例えば、あなたが掃除をしているときに、自分のおもちゃで遊んでいる。TVを見ている時やパソコンに向かっているときに、隣で寝ている。散歩のときに隣を歩く。他の犬に大きな反応をすることなくすれ違う。信号で立ち止まったら、一緒に立ち止まる。好ましい場所で排泄する。動物病院の待合室で、膝の上や足元にいる。診察台の上で、触診の間や注射をされる間、動かないでいる。こうした犬たちの協力的な行動をマーク&リウォード(マーカー→フード)で評価します。その努力に対してお返しをすると言ってもいいでしょう。

SMART x 50で対象とするのは、人が指示することなく、犬が自ら選択している行動です。キュー(合図)に従って実行した行動ではありません。自然に起きている行動の中から、望ましい行動を見つけて、マーク&リワード(マーカー→フード)します。

例えば、食事を作っている間、犬が自分のベッドでくつろいでいる。散歩のときに、長い間自分の横を歩いているなど、望ましい行動が継続している場合は、その行動に対して、1度ではなく、その行動が実行されている間、繰り返しマーク&リワード(マーカー→フード)することをおすすめします。

私たちは、他者の望ましくない行動や変化するものには意識せずとも注意が向きますが、望ましい行動や落ち着いた静かな行動には注意が向きにくいものです。ですから、多くの人が犬が自ら選択している多くの望ましい行動を見過ごしてしまっています。つまり、望ましい行動を増やすチャンスを逃してしまっているのです。

1日に50回の強化(行動に対して報酬(強化子)を提供すること)を実行することができなければ、それは望ましい行動を見逃している証。望ましい行動が増えないのは、犬のスキル不足ではなく、あなたのスキル不足です。望ましい行動を増やせるスキルを身につけましょう!

マークするとは?

マーカー(Marker、Event Marker)とは、その行動に対して、これから報酬が出るということを動物に知らせる合図です。マークするとは、望ましい行動が起きているときにその合図を出すこと。マーカーの代表格が、クリッカー(Clicker)ですが、「そう!」「Yes!」「いいこ」や「えらいね」といった言葉を使うこともできます。言葉のマーカーのことをバーバル・マーカー(Verbal Marker)といいます。犬がくつろいでいるようなときには、クリッカーのようなシャープな音ではなく、穏やかなトーンで言うバーバル・マーカーの方が犬のくつろぎを邪魔しないでしょう。特に、すでにクリッカートレーニングを楽しんでいる犬の場合、トレーニングの始まりを予感してワクワクしてしまい、よりくつろぎに戻りにくくなってしまうかもしれません。

マークするときのポイント

マークするのは、その行動が終わってからではなく、その行動が起きている「最中」です。そして、バーバル・マーカーを使う場合、言葉はなんでも構いませんが、普段の会話の中に登場しないものを選びましょう。

マーカーは、行動の科学では二次強化子(Secondary Reinforcer)と呼ばれるもの。これは、その直後に生活体が生得的に好ましいと感じる一次強化子(Primary Reinforcer)が直後に随伴する(直後に続く)ことによって確立され、維持されます。ですから、一度マーカーにすると決めた言葉は、それを言ったあとには必ず、たとえ強化するつもりがなく言ってしまった場合でも、その時その犬にとって好ましいこと(提供者が犬が喜ぶだろうと考える物事ではなく、実際にその犬が望んでいる行動の努力に見合った報酬であると感じる物事)が起こします。

SMART x 50においては、報酬としてフード(小さなトリーツ)を使います。これは、バーバル・マーカーとして選んだ言葉にマーカーとしての機能を持たせ、維持するために必要なことです。

報酬(フード)

「『ドッグフード50粒?!』と驚かれる方多いのですが、50粒って実際こんなものですよね。うちの犬たちは25~27キロの大きさの犬たちなので、この50粒は微々たるものです・・・。でもやっぱり食事の量はこの分減らしてます。」(Pawsitive Doggy Life ドッグトレーナー Hazuki Tokuue(Arizona, U.S))

「『ドッグフード50粒?!』と驚かれる方多いのですが、50粒って実際こんなものですよね。うちの犬たちは25~27キロの大きさの犬たちなので、この50粒は微々たるものです・・・。でもやっぱり食事の量はこの分減らしてます。」
(写真・コメント:Pawsitive Doggy Life ドッグトレーナー Hazuki Tokuue さん(Arizona, U.S))

ドライフードを1日50粒も使うの!?!?と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは普段の食事に、さらにドライフード50粒を追加して提供するということではありません。今あげている食事の一部を、フードボウルからではなく、1粒ずつ手からあげるようにするということです。

おすすめは、朝(もしくは前の晩)、1日分のフードを計量し、その中から50粒をSMART x 50用として取り除き、残りを普段の食事の回数分(1日2食ならば、2つ)に分け、それぞれを密閉容器に分けておくという方法。

SMART x 50用の密閉容器は、人はすぐに手が届くけれども、犬は届かない場所に置いておき、望ましい行動を見つけたら、マークして、その容器からフードを一粒取り出し、犬に提供します。

食事用に取り分けた容器のフードは、いつも通りの時間にフードボウルからあげます。フードボウルからではなく、フードパズルを使って提供すれば、さらに愛犬を楽しませられるでしょう。

「退屈」は、刺激の不足ではなく、強化子の不足を意味する。

Susan N. Schneider, Ph.D. 2012, The Science of Consequences: How They Affect Genes, Change the Brain, and Impact Our World

KONGなどのフードパズルを使って、食べ物を提供することもエンリッチメント。フードパズルを使えば、フードボウルと違い、犬は頭と体を使って食べ物を獲得します。SMART x 50と同じく、犬に強化を受ける (自らの選択によってよい結果(正の強化子)を獲得できる)機会できるのです。

SMART x 50で使うドライフードは、小型犬であれば、1粒ではなく、ピルカッターなどを使って、半分または4分の1にして提供するといいでしょう。ドライフードの代わりに、細かく切りか分けられるトリーツやゆでたレバーやささみなどを小さく切ったものを使っても構いません。

報酬(フード)を提供するときのポイント

報酬(フード)を提供するのは、マーカーの直後です。マーカーは、どの行動によって報酬を獲得しているかを明確に犬に伝えるためのツールなので、フードをあげるとき、または、犬がそれを食べるときに、犬がマークした姿勢や行動を崩してしまっていても構いません。でも、可能な限り、マークしてからフード提供までの時間を短くします。マークしたら、すばやくフードを提供しましょう。その姿勢や行動を維持していてほしいのならば、同じ姿勢に立て続けにマーク&リワード(マーカー→フード)をする、フードを出す場所を工夫して、姿勢を崩さずにフードを食べることができるようにするといったことで、姿勢は維持されやすくなりますので、意識してやってみましょう。

はじめることが大事!

SMART x 50は、人にも犬にも利益をもたらす習慣。大事なのは、最初から完璧に実行することではなく、始め、次第に慣れ、上手になっていくこと。ここまで実施する場合に注意すべきことを細かく説明してきましたが、最初から厳密にできなくても大丈夫!フードの数(強化の回数)は、時間がない人や多頭飼いの人は1日1頭につき25粒でもいいですし、それも難しいという人は1日10粒からはじめてもかまいません。(Kathy Sdao 2012, Plenty in Life Is Free: Reflections on Dogs, Training and Finding Grace

バーバル・マーカーも、それを確立させるためには、普段使わない言葉で、報酬(一次強化子)が必ず直後に随伴することが重要ではありますが、決めた言葉がなかなか思い出せなかったりして、言うタイミングが遅くなってしまったりするようであれば、はじめは、望ましい行動を見たときに、口から出て来やすい言葉でも構いません。マーカーは、いつでも変えられます。増やすこともできます。例えばクリッカーとバーバル・マーカーを行動によって使い分けたり、複数のバーバル・マーカーを使う等、複数の種類使っても構いません。その直後にフードが提供されていれば。

マークする望ましい行動をなかなか見つけられない、気づくことができないのであれば、マーク&リウォード(マーク→フード)の対象とする行動を、あらかじめリストアップしておくといいでしょう。その行動を覚えておき、その行動を見たらマーク&リウォードするようにします。「50回の強化を散歩中に実行する」とSAMRT x 50を実施する時間帯を決めるのもいいかもしれません。家族で50回の強化を分担してもいいでしょう。

最初からうまくできる人はいません。徐々に上手になっていけばいいのです。完璧さよりも、進歩すること、それに注目することが重要です。

SMART x 50を通して得られるのは、報酬ベースのトレーニングを成功させるための3つのコア・スキルだけではありません。いつも何かをやらせようとする一方的な関わりから卒業できます。望ましい行動を増やすのに、また、行動を変えるのに、犬にラベル(レッテル)を貼る必要がないことにも気づけるでしょう。自分のやるべきことが、犬に何かをやらせることではなく、自分の理想を強要することではなく、犬の成功を助けることだということにも気づけるかもしれません。SMART x 50は、オペラント条件付けですが、古典的条件付けも同時に起きているので、フードをもらったときの状況、場所、それを提供する手、あなたの存在が、その犬にとってよりいいものへと変わっていきます。

やってみようかなと少しでも興味を思ったら、ぜひ実行に移してください。SMART x 50を通して、望ましい行動に目を向け、それを確実に強化する(増やしていく)スキルと習慣を身につけてください。愛犬の生活の生活向上と、愛犬とあなたの関係のさらなる向上に貢献してくれるはずです。

Thank you Hazuki san!

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