犬がしっぽを振るのは、うれしいときだけではない

犬がしっぽを振る=喜んでいると考えていらっしゃる方は多いでしょう。しかし、しっぽは、喜んでいるとき、うれしいときにだけ、振られるものではありません。犬は、不安を感じていても、しっぽを振ります。実際に、どんな様子なのかを見てみましょう。

ご紹介する動画は、Diamonds in the Ruffのオーナーでありトレーナーである、キャロル・A・バーンズ, CPDTが、制作したもの。彼女の預かりっこ、新しい家族を待っているサリーが、はじめてバーンズ家のカメに出会ったときの様子とその対処が記録されています。

犬が怖いと思っているときのボディランゲージや行動、犬にとっての距離の大切さ、怖いという気持ちが原因の吠えへの対処の仕方について、理解を深めるのに役立ちます。

動画下に詳しい解説を掲載しています。それを読む前と読んだ後、もしくは、読む前と読みながらの2回、動画を見ていただくのがおすすめ。「自分が気付いていなかったこと」に気付けると思います。

動画の前半はサリーの様子をじっくりと追っています。怖いと感じているときの犬のボディランゲージ、行動を観察してみてください。他の犬たちはリラックスしているので、ボディランゲージや行動にどんな差があるのかに注目してみるといいと思います。後半はサリーの恐怖心からの吠えへのクリッカーを使った対処方法とその様子を紹介しています。

動画内に英語の説明が出てきますが、わからなくても、その部分を読まなくても、大丈夫です。犬たちの様子をよく観察してください。


サリーとカメ
大変!!早く来て!石が動いてる!!

動画:Carol A. Byerns, CPDT (Diamonds in the Ruff)


サリーのメッセージ、読み取れましたか?

行動

もっとも目に留まるのは、吠え。それから、怖いものから離れようとしていること。最初はかなり遠くにいましたよね。カメが近づいてくると、吠えながら少しずつ後ろに下がっています。自分からカメに近づいていっている時も、可能な限り後ろ足を動かさないようにして、体を伸ばすようにしてカメのことを確認しようとしています。そして、カメがちょっと動いた瞬間、ぴゅんっと離れ、距離を取っています。そんなことを繰り返しながら、相手の様子を伺い、安全であることを確かめながら、距離を縮めていっています。

「逃げられる」というのは、安全を意味し、いつでも逃げられる状態が、安心感につながります。刺激(他者や物)との「距離」は、「逃げられる」かどうかの大きな判断材料。つまり、安心感を大きく左右します。

犬たちはちょっとした距離の変化や、自分の行動できる範囲の限界を敏感に感じ取っています。「逃れられない」と感じる状況が、犬の不安や恐怖を増大させることを、ぜひ覚えておいてください。狭い空間の中でよく知らない人や犬と過ごす、リードが付いていたり、抱っこされている、後ろに物や壁があって逃げ道がないといった状況は、犬たちを不安にさせ、刺激に反応しやすくします。

動画のサリーに話を戻しましょう。彼女が、ずっとカメを見ていることに、気付かれましたか?怖いからこそ、目が離せないのです。

カメを見つめ、吠えながら後ろに下がる。こうしたことだけでも、吠えは不安によるものなんだなと推測できます。サリーは後半のクリッカーを使った対処に入るまで、そんな様子をずっと見せています。

ボディランゲージ

体全体の固さはどうだったでしょう? 周りの犬たちと比べてみるとわかりやすいのですが、体全体に力が入っていますね。緊張しているということです。

しっぽはいかがでしたか? クリッカーを使った対処が始まるまで、ずっと振っていました。そう、犬がしっぽを振るときは、うれしいときだけではないのです。

しっぽを振るのは、次どんなことが起きるのだろう、これからどうしようと考えている時。つまり、いいことが起こりそうなワクワク感でも、嫌なことが起こるかもしれないというハラハラした気持ちでも、しっぽは振られます。

緊張感はしっぽの固さ、動きの速さから見て取れます。ゆったりとした気持ちであれば、しっぽはやわらかくゆったりと動いていますが、緊張があればそれに比例して、固く動きも速くなります。サリーのしっぽは根元が固く、細かく激しく振られています。一方、後半で、サリーがクリッカーを使ったエクササイズをしているときに映っている、もう1頭の犬のしっぽは、しなるように左右に大きく、サリーよりも遅いピードで振られています。ポジションも、探求や平常心を示す(T2)。クリッカーの音を聞いて、自分もトリーツがもらえるかもとワクワクしているのでしょう。

サリーのしっぽのポジションはどうだったでしょう。カメを見て吠えているとき、高く上がっていましたよね。自信や警戒を示すポジション(T1)ですが、彼女の他の行動とボディランゲージから、自信ではないことがうかがえます。「こっちに来ないで!」という警告です。怖いと感じていても、足の間にしっぽを入れている(T4)とは限らないのです。

ぜひ、もう一度動画を見て、2頭のしっぽの振り方の違いを比べてみてください。

(しっぽのポジションについてはこちらの記事をご覧ください)

LAT Game(あれ見て!ゲーム)

サリーの不安軽減を助けるためにキャロルが提供したのが、クリッカーを使ったトレーニングゲーム「LAT」。レスリー・マクデービットMLA, CDBC, CPDTが、著書「Control Unleashed」の中で発表した、犬が怖いと感じたり、反応してしまいやすい刺激を見ても、落ち着いていられるようになることを手伝う、トレーニング手法です。

LATは、Look at That!の略で、日本語にすると「あれ見て!」ゲーム。犬が、苦手とするものを見た瞬間に、クリッカーを鳴らして、報酬(トリーツ)を提供します。とてもシンプルな方法ですが、反復によって、次のような役割を果たし、感情と行動の改善に役立ちます。

  • 逆条件付け(CC: Counter Conditioning):刺激(対象物)の印象をよいものに変える。
  • 代替行動分化強化(DRA):望ましくない行動以外の行動(ただ見ていること)を強化する。
  • 「見れば見るほど興奮してしまう」という状況を断ち切きる:刺激から目を離すことも同時に強化される。

このアプローチを実施するうえで、大切なのは、犬が限界を越えていない状態、つまり、刺激に反応していない状態であること。動画冒頭の、サリーがカメを見てずっと吠え続けているような状態では、LATを実施しても効果はありません。

トレーナーのキャロルは、怖いと感じているもの(カメ)から、十分に距離を取ることができる場所で、サリーが、どのくらい近づくか、どのくらい離れるかを自分自身で決められる環境整え、たっぷりと時間を提供しています。彼女が自ら考え、状況を理解し、冷静になるのを待っています。キャロルや周囲の犬たちが、リラックスしていたことも、彼女の安心に貢献したでしょう。そして、カメを見ても、ある程度の距離があれば、落ち着いていられるという状態になって、はじめてLATゲームを提供しています。

「犬が自ら刺激から目を離し、トリーツを食べられることができる」状態でなければ、こちらが望む学習は起こりません。また、このトレーニングゲームを実施するには、犬がクリッカーの意味を知っている、クリッカーの音が報酬を約束する合図であることを認識している必要があります。

LATゲームの後の、サリーのボディランゲージにも、ぜひ注目してください。しっぽは、警戒のポジションのままですが、体の固さはやわらぎ、カメに近づいたときも、4つの足に体重がバランスよく乗っています。彼女自らが決め、取っているカメとの距離もとても短くなっています。対処が成功し、カメに対するサリーの感情が緩和されたことがわかります。

「吠えていることが問題なのではありません。吠えは、怖いという気持ちの現れだったのです。不安がなければ、吠えないし、問題にもなりません。」
(キャロル・A・バーンズ, CPDT。動画のメッセージより)


うるさい!静かに!コラ!NO!いけない!ダメ!自分にとって不快な行動を犬が取った時、感情に任せて叱るのは簡単なことです。しかし、それでは状況は改善しません。

無理強いや叱ることは、犬を追いつめたり、興奮をあおることになり、事態を悪化させるだけ。犬たちの不安や恐怖の改善には、一切役に立ちません。愛犬とのよい関係にも、愛犬のよりよい選択にも役立つことはありません。


Thank you Carol for your permission to use your video on my blog!

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