罰は、犬にも飼い主にも影響を及ぼす(Jennifer Cattet Ph.D.ブログ記事日本語訳)

元の記事:Punishment affects both the dog and the owner (on Smart Animal Training System blog by Jennifer Cattet Ph.D.)


報酬ベースのトレーニング方法は、トレーナー、獣医師、行動学者など、犬のプロフェッショナルの間では、徐々に普及してきました。しかし、一般的には、今もなお、いわゆる「悪い」行動と言われるものを、罰することは有用であると、強く信じられています。

人が良くない行いをした場合に、叱ったり、スピード違反の切符を切ったり、刑務所に入れる。私たちは、そうしたことを正当とする社会にいます。ですから、罰することが、今もなお、犬の行動問題の対処にもっとも論理的な方法とされているのは、無理もないことなのです。

罰の使用の弊害は、それに賛同するか否かに関わらず、多くの研究で指摘されています。悲惨な結果となることもあり、犬たちの福祉にも影響します。

強制的な方法の使用には、思いもよらぬ結果が待ち受けていることがあります。罰を与えている人間にさえも影響が及ぶことがあるのです。愛犬の行動をどう解釈するかは、私たちの愛犬に対する考え方や感じ方、さらには、人との関わり方にさえも、影響を与えます。

悲しげなジャーマン・シェパード

悲しげなジャーマン・シェパード

飼い主たちの間では、次のようなものが、望ましくない行動をした犬を罰する方法として一般的です。犬を叩く、または、蹴る(43%)、怒鳴る(41%)、力づくでものを取り上げる(43%)、アルファーロールをする(41%)、犬をにらみつける(39%)(Herron & al. 2008

この統計は、行動のプロフェッショナルに予約をしていた飼い主たちへのアンケート結果をまとめたもの。

ほとんどのケースで、飼い主たちは、自分のペットが1つ以上の行動問題を抱えていると訴えていました。そして、その行動のほとんどは様々な恐怖や不安が原因と考えられました。

多かった訴えは、見知らぬ人への攻撃性(48%)、親しい人への攻撃性(40%)、他犬への攻撃性(43%)、そして、分離不安(32%)。

ほとんどの飼い主が、プロフェッショナルへの相談は、最終手段と考え、こうした問題に対して、自分の持つ知識だけを頼りに、自分だけで対処しようとしていました。研究でも指摘されていますが、そうした飼い主たちの行動問題への解決の試みが、実際には、逆に、問題の大きな一因となっていることがあります。

私は、愛犬の行動の問題に対する飼い主がすべき対処方法について、どうこういえる立場にはありません。私も、かつては、同じ立場だったのですから。それに、それがどんなに難しい選択であるかも知っています。「何がわからないのかもわからない」という状態なのです。

文化的な概念に基づけば、犬が唸ったり、よくない振る舞いをした場合には、犬に自分が優位な立場にいるのではないことをわからせ、「誰がボスであるかを示す!」ことが、もっとも論理的な対応ということになります。そうした考え方は、今でも、多くの本やテレビ番組で、強く支持されています。トレーニングのプロフェッショナルの間でさえも。ですから、必然的に、多くの飼い主たちは、賢明なアドバイスを受けられず、懲罰的な方法を使うという手段に訴えてしまうのです。

現在では、「アルファのオオカミ」説は、私たちの犬の情緒的反応を理解した、より現実的な方法へと、取って代わられています。かつては、支配性を示すためと考えられていた多くの行動は、今では、犬たちが、他者や脅威を感じるものを遠ざけるための行動であると認識されています。

吠える、唸る、それに、噛むことも。ほとんどが恐怖による行動です。犬たちは、大切なものが奪われることを恐れていたり(資源を守ろうとするようなケース)、身の危険を感じていたりします。

ですから、犬たちのそうした行動を罰することは、必然的に悲惨な結果を招き、問題を解決するどころか、問題を増大させてしまうことが多いのです。犬の恐怖が確立されているとすれば、飼い主は、それまでに、その犬が大切にしているもを無理矢理奪い取ったか、もしくは、犬をとても辛い目に合わせてしまっているでしょう。悲しいことに、飼い主と犬の関係は損なわれています。人間と動物の間に、かつて存在していた配慮と愛情は損なわれ、恐怖や対立、誤解に取って代わってしまっています。

犬を罰する、それは犬に影響を与えるだけではなく、懲らしめを施す側である人間にも大きな影響を与えるのです。私は長い間、犬の行動とクリッカートレーニングのテクニックの基礎を、刑務所にいる男女に教えていました。彼ら全員が、「悪い」行動は罰せられるべきだという強い信念を持ってやってきます。犬たちの「悪意のある」行動を無視したり、治療したりするなどということは、ハンドラーとしての能力のなさを現していると考えています。

写真提供:Liz Kaye

写真提供:Liz Kaye

興味深かったことがありました。ある刑務所でのことです。そこでは、すでに別の犬のプログラムが実施されていて、ハンドラーとなる受刑者たちに、アルファロールとリードで罰を与えることを教えていました。わずか15メートルほどの空間の中に、2つの哲学が共存することになったのです。

私のグループのハンドラーである受刑者たちは、犬たちに、ペッツのディスペンサーのように、定期的かつ機械的にトリーツを提供しながら、普段よりも高い声で、楽しげに話しかけることを求められました。

別のグループのハンドラーたちは、大声でコマンドを言い、犬にリードでショックを与えていました。刑務所という環境では、片方のグループの振る舞いは「弱虫」であると、もう片方のグループの振る舞いは「男らしい」と見なされます。犬のトレーニングとは、犬をトレーニングすることだけではなく、アイデンティティを確立し、他者と折り合いを付けることでもあります。

トレーニングをする人は、責任を感じ、強くなることができ、スキルを磨き、思いやりと知識と理解力を持つことができます。2つのグループは、同じ時間に外で犬たちのトレーニングをしていました。いつもお互いのことをよく見ていたでしょう。

最初の頃、彼らはいつも冷やかしを受けていました。他の受刑者たちばかりではなく、何人かの刑務官にさえも。私のグループのハンドラーたちは、どんなに辛かったでしょう。

月日が立つにつれ、私のグループのハンドラーたちは、やり方が目に見えて穏やかになっていきました。我慢強くなり、理解を深めていきました。グループを突き動かすものが、対抗心から、心を開き、役立とうとすることへと変化していきました。

彼らが、犬の気持ちを見抜く力を身につけ、犬たちがどれだけ多くのストレスや不安を経験してきたかを理解するようになるにつれ、彼らは、他の人たちに対する自分自身の態度についての理解と、自分自身が抱える不安への認識を深めていきました。

もっとも重要なのは、犬だけではなく、周囲の人々に、自分自身の行動が、どんな影響を与えるのかを知ったことでしょう。もちろん、すべてのハンドラーが、 同じように変化を受け入れられたわけではありません。それは、犬と同じです。習慣は激しく抵抗するものです。長くしてきたことほど、排除するのは難しいのです。

1年ほどたったころ、その施設のもう一つのグループにいた多くハンドラーが、質問をしてくるようになりました。犬への報酬ベースのトレーニングの結果を見て、疑念が少しずつ、興味へと、学びたいという気持ちへと変わっていったのです。

かつては冷やかされていた、私のグループのハンドラーたちは、他のグループに教える先生になっていました。犬のトレーニングと行動改善の専門家として、多くの人に認められたのです。変化が起ったのです!

2012 Behaviour Matrix copy
Copyright: Robin Hutton

私は、何年にも渡り、犬の行動についての知識と理解が、犬たちを扱う人々に与える影響力を、何度も目の当たりにしてきました。

私は、このテーマについての研究を知りませんが、状況にどう対応するかは、それをどう見るかによって決まるということは、明らかです。私たちは、目の前にいる犬を「意地が悪い」とか「悪意がある」と見なした場合、イライラし、怒りを覚えます。何らかの方法で、その犬に知らしめる必要があると考えながら、腹立たしさを募らせていきます。そうした気持ちが蓄積されれば、地元のシェルターに犬を置いて行くことは容易になります。

自分の犬の行動に恐怖や不安が見て取れたときには、それに同情し、自分のケアと援助の必要性をより感じます。また、私たちは、罰に対する感覚が鈍っているので、結果が得られないとき、与える不快感のレベルを次第により強く、より過酷にしていく恐れがあります。そんなふうにして、私たちはより強い行動習慣を作っています。そして、他の人々に対しても、より頑な態度を取ってしまいやすくなるのです。

犬と人間は多くの点で類似しています。私たちは、科学の進歩を通して、犬の行動が何のためであるかを理解しようとすることだけに一生懸命になるのだけではなく、人間である自分たちも、犬たちと大差はないことを認識しておくことが必要です。

人間の行動の根底にある原動力について理解すれば、犬のトレーニングに対して別の見方をする人々に、もっと思いやりや寛容さを持つことができるでしょう。

ほとんどの飼い主たちは、動物と愛情深く充実した関係を築くことを願い、犬を迎えています。しかし、現実に直面します。かわいい子犬は新品のカーペットを壊してしまいます。そして、その行動に対する知識と理解が、飼い主と子犬の関係の明暗を分けるのです。対立的なテクニックは、問題を増大させることが示されていますが、時に、飼い主は、激しく叩くこと以外には、選択肢はないとまで考える場合があるのです。 (Hiby & al., 2004)

真の変化を生み、犬たち全体を助けるためのもっとも効果的な方法は、理解と非難を対比させた実例を用いて、考えが異なる人たちを、教育し、導くことです。

Jennifer Cattet Ph.D.

Jennifer Cattet博士は、約30年に渡り、スイス・ジュネーブ大学の動物行動学者として、また、トレーナー、ビヘイバリストとして、ヨーロッパとアメリカで、犬たちのことに取り組んできました。数百という飼い主たちの、ペットとのより充実した関係作りを手伝ってきましたが、今もなお、犬と人との絆を深める方法を探し続けています。元介助犬団体のトレーニングディレクターで、インディアナ州の3つの刑務所で、約40頭の犬を使ったトレーニングの責任者を務めていました。糖尿病患者のための血糖値の変化を警告する犬の研究チームの一員でもありました。現在は、Smart Animal Training Systemと協力し、報酬ベースのトレーニングと、それを支える技術の発展の促進に取り組んでいます。


Thank you Dr. Jennifer for your permission to translate and share your article!